

2025年12月19日、政府・与党から公表された「令和8年度(2026年度)税制改正大綱」において、大きな目玉として打ち出されたのが、いわゆる「年収の壁」の178万円への引き上げです。
長年、働く方々や経営者を悩ませてきた「103万円の壁」が、2025年分からの160万円への段階的引き上げを経ていよいよ2026年より178万円という新たな基準へ到達することが決定しました。
今回は、この改正が皆様の家計や企業の経営にどのような実務的影響を与えるのか、解説いたします。
これまで、パートやアルバイトの従業員が「103万円を超えないように」と、年末にシフトを減らす光景は珍しくありませんでした。
178万円まで枠が広がることで、従業員はより多くの時間働けるようになり、人手不足に悩む企業にとっては貴重な労働力を確保できるメリットがあります。
年収180万円で働くAさんの場合、これまでは103万円を超えた分に所得税がかかっていましたが、2026年からは178万円までが所得税非課税(あるいは大幅減税)となります。
試算では年間で数万円単位の減税効果が見込まれ、実質的な手取り額が増加します。
ここが最も注意すべき実務上の落とし穴です。
今回の改正はあくまで「所得税(税金)」の話です。
106万円の壁・130万円の壁:これらは「社会保険(厚生年金・健康保険)」の基準であり、今回の178万円への引き上げとは連動していません。
仮に年収178万円まで働いて所得税がゼロになったとしても、社会保険料の負担が発生すれば、結果として手取りが減る「働き損」が生じる可能性があります。
経営者の皆様は、従業員への説明においてこの「税務と労務の分離」を正確に伝える必要があります。
今回の改正は、多くの納税者に影響が及ぶ大規模なものです。
影響のある皆様へ、以下の準備を推奨いたします。
従業員が178万円まで働いた際、社会保険料を含めた「最終的な手取り」がどうなるか、個別のシミュレーションが必要です。
「年収の壁」が緩和されることで、扶養内での働き方の定義が変わります。
これを機に、より長時間働ける環境を整え、生産性を向上させるチャンスと捉えましょう。
「178万円の壁」への引き上げは、物価高騰に苦しむ家計には朗報ですが、社会保険制度とのバランスを見極める冷静な視点が不可欠です。
制度が複雑化する今だからこそ、専門家による正しい知見が、確実な節税と円滑な労務管理の鍵となります。
いかがでしたでしょうか?
今回の解説が、皆様の税制改正大綱の理解の一助となれば幸いです。
