スタートアップ経営講座(マーケットインとプロダクトアウト)

お知らせ・コラム

スタートアップ経営講座(マーケットインとプロダクトアウト)

はじめに
これから事業をはじめようとする方、または、事業を始めたばかりの方は、自社の製品やサービスが、本当にお客様に受け入れてもらえるだろうか?或いは、当初の計画通りに、売上高を伸ばしていけるだろうか?など、心配の種は尽きないと思います。

そこで今回は、製品やサービスを開発・販売する際の基本的な考え方であり、マーケティングの重要な視点でもある「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という考え方について、ご紹介したいと思います。

きっと新たに事業を開始する皆さんにとって、何かしらヒントになるものがあると思います。

 

マーケットイン(Market-in)について

マーケットインは、市場や顧客のニーズを起点として、市場や顧客が必要とするものを提供するアプローチを言います。
つまり、あらかじめ市場のニーズを調査した上で、市場が本当に求めている製品やサービスを開発・販売していこうという考え方です。

発想の出発点

まずは、顧客が「どんなものを欲しがっているか」「何に困っているか」などを徹底的に調査し、或いは、顧客の立場に立って、そのニーズを満たす製品やサービスは何かを考えます。

開発プロセス

市場調査や顧客へのヒアリングを綿密に行い、そのデータをもとに製品やサービスの企画・開発を進めます。
もし市場調査に多くの時間と費用をかけられない場合は、自身が徹底的に顧客になりきって考える、或いは、身近で正直に意見を言ってくれる複数の人に意見を求めて参考にする、などの方法でも構いません。

メリット

1.売上予測が立てやすい
当然ですが、顧客のニーズに合わせて製品やサービスを提供するため、売れる見込みが高く、売上の予測は立ちやすくなります。
また、どのくらいの顧客にどのくらいの期間でどの程度売れるかを予測すれば、将来的な事業計画も立てやすくなります。

2.効果的なマーケティングが行える
事前の市場調査などで、ターゲットとなる顧客が明確になっているため、ターゲットを絞った効果的なマーケティングを行うことができ、それによってさらに売上を伸ばすことも可能になります。
3.失敗のリスクを軽減できる
そもそも市場や顧客の需要があるところに、製品やサービスを提供しているため、市場に受け入れられず無駄な投資に終わる可能性は低く、事業失敗のリスクを軽減できます。

デメリット

1.競合との差別化が難しい場合がある
市場や顧客の既存のニーズに応えることになるため、競合他社と似たような製品やサービスになりやすく、差別化が難しい場合があります。
2.革新性の低下
顧客が想定していないような、革新的な製品やサービスは生まれにくいため、革新性は低下します。
革新性が低いと爆発的なヒットは期待できないかもしれません。

3.リサーチに時間とコストがかかる
マーケットインでは、事前に、市場調査や顧客へのヒアリングを行うことを前提としているため、製品やサービスを提供するまでに時間とコストがかかってしまいます。
従って、事前のリサーチにはなるべく時間とコストをかけないような工夫も必要になります。

マーケットインの成功例
キーエンスは、マーケットイン型企業として有名です。
キーエンスでは、「お客様が困っていること」を起点として商品を作っており、「商品の強み」を起点にしていません。
彼らは、商品開発の前にお客様のニーズがどこにあるかを徹底的に突き詰めていくため、顧客の工場(海外も含む)まで直接出向き、現場のスタッフが実際に困っていることを貪欲に見つけに行きます。
顧客のニーズを掴んだら、社会全体の潮流や業界トレンドを視野に、自社の技術的な強みと競合他社の商品を考慮して、商品企画を行います。
キーエンスのすごいところは、そのあと、商品開発を実行する前に、さらに検証を行うことです。
つまり、これから作ろうとしている商品が、本当に顧客の役に立つかを、直接、顧客に聞きに行きます。
ここまで徹底して顧客ニーズを追求した結果が、今のキーエンスを作っているのでしょう。

 

プロダクトアウト(Product-out)について

プロダクトアウトは、自社の技術やアイデアを起点として、製品やサービスを開発する考え方です。
市場や顧客のニーズを起点として製品やサービスを開発するマーケットインとは全く逆の発想になります。

発想の出発点

「自社にはこんな技術がある」「こんな面白いものが作れる」という発想からスタートし、その製品やサービスを考えます。

開発プロセス

自社の技術力や強みを最大限に活かして製品やサービスを開発し、その後に市場の反応や売り方を考えます。
プロダクトアウトでは、既に顕在しているニーズに応えることよりも、潜在的なニーズを掘り起こすことを重視して、製品やサービスの開発を行います。

メリット

1.競合との差別化を図り革新的な製品・サービスを開発できる
自社が持っている技術やアイデアをもとに製品やサービスを開発するため、競合他社との差別化を図り、革新的な製品やサービスを生み出せる可能性が高くなります。
場合によっては、競合を寄せ付けない独創的な製品・サービスを生み出すことで、市場の独占も可能となります。
2.ブランド価値の向上を図れる
自社の強みを活かし、画期的な製品・サービスを生み出すことで、企業ブランドの価値の向上が期待できます。
特に新しい市場を切り開く製品・サービスは、消費者に強い印象を残し、ブランド価値の向上を図れます。
3.開発コストを抑えられる
既存の自社技術と自社の強みを活かして開発を行うため、事前のリサーチは不要であり、場合によっては、新しい機材の導入やスタッフの増員も不要となるため、開発コストを抑えることができます。

デメリット

1.市場のニーズに合わず売上予測が大幅に狂ってしまう可能性がある
プロダウトアウトは、「売れるもの」ではなく「売りたいもの」を優先するため、市場のニーズに合致せず、消費者に必要とされないものを作ってしまい、売上に全く結びつかない可能性があります。
新規事業で失敗するケースは、大方がこのパターンです。
2.販売戦略がおろそかになる
「この製品・サービスは絶対に良いものである」「良いものであるから絶対に売れるはずである」という考えになりがちで、販売に全く力を入れず、おろそかになってしまうことがあります。

プロダクトアウトの成功例

プロダクトアウトの成功例として有名なものに、「アップル社のiphone」「ソニーのウォークマン」があります。
1.iphpne
2007年に登場した『iphone』は、プロダクトアウトの成功事例の代表格です。
iphoneが登場するまではボタンを押して操作する「携帯電話(ガラケー)」が主流でしたが、既存市場にはなかったPC機能やPDA機能を搭載した「スマートフォン」を開発し、全く新しい価値を市場に提供したことにより、その先進的なアイデアが全世界を魅了し、現在のスマートフォンが主流の世界を実現させました。
2.ウォークマン
「ウォークマン」とは、ソニーが販売するデジタルオーディオプレーヤーです。
家で音楽を楽しむのは当たり前だった時代に、「持ち運び可能な音楽プレーヤー」という新しい価値を市場に提供し、爆発的な売上を記録しました。
ウォークマンをつけて外出先でも気軽に音楽を聴けるようになり、若者を中心に高く評価されました。

k‘sアドバイス

いかがでしたでしょうか?
「マーケットイン」と「プロダクトアウト」。
どちらも重要な考え方ですが、われわれ中小企業は、「プロダクトアウト」の発想で失敗するケースが多く、どちらかと言えば、「マーケットイン」の発想を重視した方が良いかもしれません。

事業を行っていると、たまに「これは絶対に売れる!」と確信する瞬間があり、それに向かって真っしぐらに突き進んでしまうことがありますが、大抵は自己満足で終わってしまい、思ったほどは売れません。
これは、企業側・提供する側の視点でしか物事を考えておらず、市場側・顧客側の視点で考えていないことが原因です。
会社のホームページ一つとっても、同じことが言えます。
多額の費用をかけてホームページを作成し、SEO対策にもお金をかけているにもかかわらず、集客に全く結びつかない、という不満を良く聞きます。
このような会社のホームページは、作りやデザインは大変素晴らしいのですが、掲載内容が、単なる「会社の説明(会社自慢?)」「事業内容の説明や商品・サービスの説明」に終わってしまっているケースがほとんどです。
これは「プロダクトアウト」的な発想と言っていいでしょう。
これを「マーケットイン」の発想に切り替えたらどうでしょうか?
顧客が一番知りたいのは、「あなたの会社に依頼したら私にどんな得がありますか?」そして「競合と比べて何が違うのですか?」ということだと思います。
従って、このような顧客が本当に知りたい情報を、ホームページの中に明確にそして具体的に盛り込むことが、「マーケットイン」の視点に立ったホームページであり、結果として、集客にも結び付くのではないかと思います。
もちろん、このような情報を盛り込むためには、ターゲットを明確にした上で、そのターゲットが本当に必要としているもの、困っていることを、事前にリサーチしておくことが必要です。

私たちは、自らの無限の可能性を信じる余り、自分自身や自分が考えたアイデアを過大評価してしまいがちです。
でも、スティーブジョブズやソニーの優秀な技術者と同じレベルになるのは至難の業です。
新たに閃いたアイデアを尊重し、新しい製品やサービスの開発に活かすことは素晴らしいことですが、その場合でも、「マーケットイン」の視点を忘れてはいけません。
事業成功の秘訣は、顧客のニーズを丁寧に拾っていきながら、そのニーズに応えられるような製品やサービスを地道に市場に提供していくことではないでしょうか?





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